「若い人が欲しい」「女性が活躍する職場」……。求人票に何気なく書いたその一言が、実は法律違反になる可能性があることをご存知でしょうか?
2024年4月の職業安定法改正により、求人時に明示すべき項目が拡大されました。現在、採用現場では「何をどこまで書けばいいのか」「この表現はNGではないか」というコンプライアンスへの不安が急速に高まっています。
せっかくコストをかけて出した求人広告も、男女雇用機会均等法や労働施策総合推進法(旧:雇用対策法)に抵触すれば、行政指導の対象となるだけでなく、SNSでの炎上や、最悪の場合は損害賠償請求という深刻な訴訟トラブルに発展しかねません。
この記事では、求人担当者が必ず押さえておくべき「求人票のNG表現一覧」と、2024年施行の最新改正ポイントを徹底解説します。
- 「若い人が欲しい」を法的にクリアな表現に言い換えるには?
- 給与や転勤の記載で「虚偽・誇張」と見なされないための境界線は?
- 実際に90万円の賠償命令が出たトラブル事例とは?
現場ですぐに使える「合法的な言い換え例」や、公開前のセルフチェックリストも網羅しました。法的リスクを回避しつつ、求職者に響く「正しく魅力的な求人票」を作成するための実践ガイドとして、ぜひご活用ください。
目次
法律違反となる表現一覧

求人票で使ってはいけない表現は、法律によって明確に定められています。ここでは主要な3つの法律について、実務で間違えやすいポイントを中心に解説します。
【男女雇用機会均等法】性別を限定する表現
法律の趣旨
男女雇用機会均等法(第5条)では、性別を理由とした差別的な取り扱いを禁止しています。募集・採用において、性別を限定したり、一方の性を優遇したりすることは違反です。
禁止される表現例
明確な性別限定
- 「男性のみ募集」「女性限定」
- 「営業マン募集」「看護婦募集」
- 「ウェイター・ウェイトレス募集」
間接的な性別限定
- 「若い女性が活躍中」
- 「男性が多い職場です」
- 「体力に自信のある男性歓迎」
- 「女性ならではの気配りができる方」
写真・イメージによる性別の示唆
- 求人票に男性のみ、または女性のみの写真を掲載
- 「男性社員が活躍している様子」のみを掲載
OK例(性別を限定しない表現)
- 「営業職」「看護師」(職種名を性別中立に)
- 「20〜30代の社員が活躍中」(性別を除いて年代のみ記載)
- 「体力を使う仕事もあります」(性別ではなく仕事内容を記載)
- 「細やかな気配りができる方」(性別に紐づけない表現)
例外的に性別限定が認められるケース
以下の場合に限り、例外的に性別限定が認められます。
- 芸術・芸能の分野での表現の真実性の要請から、一方の性でなければならない職業
- 守衛、警備員等の防犯上の要請から、一方の性に従事させることが必要な職業
- 宗教上、風紀上、スポーツにおける競技の性質上、その他の業務の性質上一方の性に従事させることについてやむを得ない事情がある職業
例:俳優、モデル(男性役・女性役)
例:女性用更衣室の監視員(女性のみ)
例:巫女、助産師
ただし、これらの例外事由に該当する場合でも、求人票にはその理由を明記する必要があります。
記載例
「女性用更衣室の監視業務のため、女性のみの募集となります(男女雇用機会均等法第5条第4号に基づく)」
【労働施策総合推進法(旧:雇用対策法)】年齢を制限する表現
法律の趣旨
労働施策総合推進法(第9条)では、年齢を理由とした差別を禁止しています。募集・採用において、原則として年齢制限を設けることはできません。
禁止される表現例
明確な年齢制限
- 「35歳まで」「40歳以下の方」
- 「30代の方歓迎」
- 「定年まで長く働ける方(35歳まで)」
間接的な年齢制限
- 「若手が活躍中」「若い人が欲しい」
- 「新卒・第二新卒歓迎」(中途採用では年齢制限と見なされる可能性)
- 「フレッシュな人材を求めています」
- 「ベテラン歓迎」(特定年齢層を想起させる)
OK例(年齢を限定しない表現)
- 「年齢不問」「幅広い年代が活躍中」
- 「20代〜50代まで幅広い年代の社員が在籍」(実態を示すのはOK)
例外的に年齢制限が認められる6つの事由
厚生労働省令で定められた以下の6つの例外事由に該当する場合のみ、年齢制限が認められます。
例外事由1号:定年年齢を上限とする場合
- 定年年齢が65歳の企業が「65歳未満」を募集条件とする
- 記載例:「65歳未満(定年年齢を上限)」
例外事由2号:法令で年齢制限がある場合
- ・労働基準法等で年齢制限が定められている業務
- 記載例:「18歳以上(労働基準法第62条による)」
例:警備業務(18歳以上)、危険有害業務(18歳以上)
例外事由3号イ:長期勤続によるキャリア形成のため(最も多く使われる例外)
- 新卒一括採用、または職業経験不問の若年者向け募集
- 条件:
- 記載例:「35歳未満(長期勤続によるキャリア形成を図るため。例外事由3号のイ)」
・期間の定めのない労働契約
・職業経験不問
・特定職種における特別な職業経験を求めない
例外事由3号ロ:技能・ノウハウの継承のため
- 熟練労働者の退職による技能継承が必要な場合
- 記載例:「45歳以上(技能継承のため。例外事由3号のロ)」
例外事由3号ハ:高齢者・若年者の雇用促進のため
- 特定年齢層の雇用促進を目的とした施策に基づく場合
例外事由3号ニ:芸術・芸能の分野
- 年齢が表現の真実性等に関わる職業
年齢制限の例外事由を適用する場合は、必ず求人票にその理由と該当する例外事由を明記しなければなりません。記載がない場合は法律違反となります。
【職業安定法】虚偽・誇張表現の禁止
法律の趣旨
職業安定法(第5条の3、第65条)では、虚偽の表示や誤解を招く表現により労働者を募集することを禁止しています。
虚偽・誇張表現の具体例
給与に関する虚偽
- 実際は月給25万円なのに「月給30万円以上」と記載
- 固定残業代込みの金額なのに、その旨を明記しない
- 「年収600万円可能」と記載しているが、実際にはほぼ達成不可能
勤務時間・休日に関する虚偽
- 実際は残業が多いのに「残業ほぼなし」と記載
- 「完全週休2日制」と記載しているが、実際は週休1日の週もある
- 「有給取得率90%」と記載しているが、根拠データがない
仕事内容に関する虚偽
- 「営業職」として募集し、実際はテレアポのみの業務
- 「事務職」として募集し、実際は製造ラインの作業
- 「正社員」として募集し、実際は契約社員やアルバイト
勤務地に関する虚偽
- 「東京勤務」と記載し、実際は地方への転勤が前提
- 「転勤なし」と記載し、実際は転勤の可能性がある
「誤解を招く表現」も禁止(2024年改正)
2024年10月からの改正により、虚偽だけでなく「誤解を招く表現」も禁止されました。
誤解を招く表現の例
- 「月給30万円〜」と大きく記載し、小さく「※各種手当含む、固定残業代含む」 → 基本給が不明瞭で誤解を招く
- 「月給30万円〜(基本給24万円+固定残業代6万円/30時間分含む)」 → 内訳を明確に
- 「年収500万円以上可能」(実際は一部の高実績者のみ) → 誰でも達成できるような誤解を与える
- 「年収500万円以上可能(トップ営業の実績例。平均年収は420万円)」 → 実態も併記
虚偽表示の罰則
職業安定法第65条により、虚偽の表示をした場合
実際の裁判例では、虚偽の求人により損害を被った労働者から損害賠償を請求され、企業が数十万円〜数百万円の賠償を命じられたケースもあります。
2024年4月施行の法改正:記載必須項目の拡大

2024年4月1日に職業安定法施行規則が改正され、求人票に明示すべき項目が大幅に追加されました。この改正を知らずに従来の求人票を使い続けると、法律違反になります。
新たに追加された4つの必須明示事項
① 従事すべき業務の変更の範囲
入社直後の業務だけでなく、将来的に担当する可能性のある業務の範囲を明示する必要があります。
記載例
営業職(法人向け既存顧客フォロー)
【業務の変更の範囲】
会社の定める業務全般
(営業、営業事務、カスタマーサポート、企画業務等)
または、変更がない場合
営業職(法人向け既存顧客フォロー)
【業務の変更の範囲】
変更なし(営業職のみ)
② 就業の場所の変更の範囲
入社直後の勤務地だけでなく、将来的に転勤や配置転換の可能性がある範囲を明示する必要があります。
記載例
【勤務地】
東京本社(東京都千代田区〇〇)
会社の定める事業所
(東京本社、大阪支店、名古屋支店、福岡支店)
または、変更がない場合
東京本社(東京都千代田区〇〇)
【就業場所の変更の範囲】
変更なし(東京本社のみ)
③ 有期雇用契約の更新の有無と更新の判断基準(有期契約の場合)
契約社員やパート・アルバイト等の有期雇用契約の場合、契約更新の有無と、更新するかどうかの判断基準を明示する必要があります。
記載例
契約社員(1年契約)
【契約更新の有無】
あり(原則更新。ただし契約期間満了時の業務量、本人の勤務成績・態度により判断)
【更新の判断基準】
・契約期間満了時の業務量
・従事している業務の進捗状況
・本人の勤務成績・勤務態度
・会社の経営状況
④ 有期雇用契約の更新上限の有無と内容(有期契約の場合)
「最長3年まで」「通算5年まで」など、更新回数や期間に上限がある場合は、その内容を明示する必要があります。
記載例
あり(通算契約期間5年を上限とする)
または、上限がない場合
なし
違反した場合の罰則
労働条件明示義務違反の場合
- 30万円以下の罰金(職業安定法第64条)
- ハローワークからの行政指導
- 企業名の公表(悪質な場合)
トラブル回避のための実践的な表現改善例

ここでは、実務でよくある「グレーゾーン表現」を、法的リスクのない表現に改善する方法を解説します。
ケース①「若い人が欲しい」を合法的に表現する
NG例
「若手歓迎」「20代〜30代が活躍中」
OK例(例外事由3号イを使用)
35歳未満の方
※長期勤続によるキャリア形成を図るため
(労働施策総合推進法第9条の例外事由3号のイ)
※職業経験不問
条件
- 期間の定めのない雇用(正社員)
- 職業経験不問
- 特定の職業経験を求めない
ケース②「体力が必要な仕事」を性別制限なく表現する
NG例
「体力に自信のある男性歓迎」
OK例
・重量物(10〜20kg程度)の運搬作業があります
・1日3〜4時間程度、立ち仕事が中心です
・体力を使う業務ですが、男女問わず活躍しています
【実際に働く社員】
20代〜50代の男女社員が活躍中
(男性60%、女性40%)
ポイント
- 性別ではなく「業務内容」を具体的に記載
- 実際に男女両方が働いている実態を示す
ケース③「給与が高く見えるよう書きたい」の適切な表現
NG例
「月給35万円〜」 (実際は固定残業代10万円込み、基本給25万円)
OK例
月給35万円〜
(内訳)
・基本給:25万円〜
・固定残業代:10万円(40時間分)
※超過分は別途支給
【モデル年収】
・入社1年目:年収420万円(月給35万円×12ヶ月)
・入社3年目:年収520万円(昇給・賞与含む)
ポイント
- 固定残業代の時間数と金額を明記
- 基本給を明確に記載
- モデル年収で実態を示す
ケース④「転勤の可能性」を正直に伝える
NG例
「勤務地:東京」(転勤の可能性があるのに記載しない)
OK例
東京本社(東京都千代田区〇〇)
【就業場所の変更の範囲】
会社の定める事業所
(東京本社、大阪支店、名古屋支店)
【転勤について】
・入社後3年間は原則転勤なし
・その後、本人の希望とキャリアを考慮して配置
・転勤は年1回の人事異動時のみ
・転勤の際は3ヶ月前に通知
・家族の事情等は最大限考慮します
ポイント
- 転勤の可能性を隠さない
- 転勤のタイミングや頻度を具体的に
- 配慮事項を明記して不安を軽減
ケース⑤「未経験歓迎だが、一定のスキルは必要」
NG例
「未経験OK」(実際はPCスキル必須なのに書いていない)
OK例
◆必須要件
・基本的なPCスキル(Word、Excelの基本操作ができる方)
・普通自動車免許(AT限定可)
◆業界・職種未経験OK!
事務職や営業職の経験は不問です。
入社後の研修でしっかりサポートします。
【こんな方は特に歓迎】
・接客や販売の経験がある方
・コミュニケーションを大切にできる方
ポイント
- 「未経験OK」の範囲を明確に
- 必要な最低限のスキルは明記
- 「何が未経験でもOKか」を具体的に
ケース⑥「女性が多い職場」を合法的に表現する
NG例
「女性が多く、働きやすい職場です」
OK例
・スタッフ構成:20代〜40代のスタッフが中心
・現在の男女比:男性3名、女性12名
・産休・育休取得実績100%
・時短勤務制度あり(小学校3年生まで)
・ライフステージに合わせた働き方を応援します
【こんな方におすすめ】
・子育てと両立しながら働きたい方
・長期的に安定して働きたい方
・チームで協力しながら仕事を進めたい方
ポイント
- 「女性が多い」ではなく具体的な人数比を記載
- 制度や環境を具体的に示す
- 「女性向け」ではなく「誰でも働きやすい環境」として訴求
チェックリスト:求人票公開前の最終確認

求人票を公開する前に、以下のチェックリストで法的リスクがないか確認しましょう。
□ 性別を限定する表現を使っていないか
□ 「営業マン」「看護婦」など性別を示す職業名を使っていないか
□ 男性のみ、または女性のみの写真になっていないか
□ 性別限定の例外事由に該当する場合、その理由を明記しているか
【年齢に関するチェック】
□ 年齢制限を設けていないか
□ 「若手」「ベテラン」など年齢を想起させる表現を使っていないか
□ 年齢制限の例外事由に該当する場合、その理由と例外事由番号を明記しているか
【虚偽・誇張表現に関するチェック】
□ 給与額は正確か(固定残業代の内訳を明記しているか)
□ 勤務時間・残業時間は実態と合っているか
□ 休日日数は正確か
□ 仕事内容は実態と合っているか
□ 勤務地・転勤の可能性は正確に記載しているか
□ 雇用形態(正社員・契約社員等)は正確か
【2024年4月改正対応チェック】
□ 「業務の変更の範囲」を明示しているか
□ 「就業場所の変更の範囲」を明示しているか
□ 有期契約の場合、「契約更新の有無と判断基準」を明示しているか
□ 有期契約の場合、「契約更新上限の有無」を明示しているか
【その他の法定明示事項チェック】
□ 業務内容を明示しているか
□ 契約期間を明示しているか
□ 試用期間の有無と内容を明示しているか
□ 就業場所を明示しているか
□ 就業時間・休憩時間を明示しているか
□ 休日・休暇を明示しているか
□ 賃金(基本給、手当、賞与等)を明示しているか
□ 社会保険の加入状況を明示しているか
トラブル事例から学ぶ:こんなケースで訴訟に

実際に起きた求人票トラブルの事例をご紹介します。
【事例1】給与額の虚偽表示で90万円の損害賠償
概要: 求人サイトに「月給35万円〜」と記載していたが、実際に提示された給与は月給25万円だった。応募者が前職を退職して入社したが、提示された給与が求人票と大きく異なっていたため、企業を提訴。
裁判所の判断: 「求人広告の記載は雇用契約の労働条件となる」として、企業に約90万円の損害賠償を命じた。
教訓: 求人票の給与額は「最低保証額」として扱われます。実際に提示できる給与額を正確に記載しましょう。
【事例2】「転勤なし」が虚偽で契約解除
概要: 求人票に「転勤なし」と記載していたが、入社半年後に大阪への転勤を命じられた。労働者が転勤を拒否したところ解雇された。労働者が不当解雇として訴訟。
裁判所の判断: 求人票の「転勤なし」という記載は労働条件の一部であり、企業側の転勤命令は無効。解雇も不当として、企業に未払い賃金等の支払いを命じた。
教訓: 転勤の可能性がある場合は、必ず求人票に明記しましょう。「原則転勤なし」など、可能性がある場合はその旨も記載が必要です。
【事例3】「正社員募集」が実際は契約社員
概要: 「正社員募集」として求人を出したが、実際に提示された契約は1年契約の契約社員だった。応募者が詐欺だとして訴訟。
裁判所の判断: 求人票の「正社員」という記載と実際の契約形態が異なることは、虚偽の表示に該当するとして、企業に損害賠償を命じた。
教訓: 雇用形態は明確に記載し、求人票と実際の契約内容を一致させる必要があります。
法的リスクを回避するための社内体制
求人票の法的リスクを避けるためには、作成プロセスに「チェック体制」を組み込むことが重要です。
推奨される社内チェック体制
ステップ1:作成担当者が初稿を作成
採用担当者が求人票の初稿を作成
ステップ2:現場責任者による事実確認
仕事内容、労働条件が実態と合っているかを現場責任者が確認
ステップ3:人事・法務によるコンプライアンスチェック
法律違反の表現がないかをチェック
上記のチェックリストを使用
ステップ4:最終承認者による承認
人事部長または経営層が最終確認・承認
ステップ5:公開後の定期的な見直し
法改正や実態変更に合わせて、年1回以上見直し
外部専門家の活用も検討
社内にノウハウがない場合は、以下の専門家への相談も有効です。
- 社会保険労務士:労働法規全般のアドバイス
- 弁護士:法的リスクの精査
- 求人コンサルタント:法令遵守と魅力的な表現の両立
まとめ

この記事で解説した法的知識は、求人票作成における「絶対に守るべき最低ライン」です。
法律を守ることは、企業を守ることであり、応募者との信頼関係を築く第一歩です。魅力的な求人票と法令遵守は、決して矛盾しません。正確な情報を、魅力的に伝える―これが、プロフェッショナルな求人票作成の本質です。
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